メモ

以下、なんとなく考えたこと・感じたことをなるべく整理した形で文字に起こして視覚化しました。ツッコミどころ満載かと思いますので、出来たら香りだけ感じてもらって、参考程度にお願いします。それっぽく書いてあっても、今はまるっきり意見が変わってるなんてことがよくあります。人は変わるからね、

調整期間について

 

調整~レース本番

1. レースに出る

 先述の通り、ピーキングにあたっては一般に、練習量を落としていくことになります。しかしながら、試合期に出場するするすべてのレースで自己ベストを狙っていては、特に試合期後半には、それ以前のメゾ周期から貯めてきた有酸素ベースは底をつき、ピークアウトの一途を辿ることになるでしょう。
 とりわけ試合期にかけては、トレーニングの進行具合を計るためにレースに出たり、中々普段では行えない高強度練習の一環としてレースに出たりなど、多くのレースを走ることになるかもしれません。(賛否はあると思いますが、たくさん出ときたい気持ちもわからなくはないので、好きにしたらって印象。)この時、大事なのは、テーマをもってレースを走ることです。このレースを通して何を得たいのか、そのためにレースに至るまであるいはレース中どどうしていくのか、またレース後、何を学びどう活かしていくのかは常に問い続ける必要があります。レース感覚を身に付けたいからといって安易にレースに出ても、ただ走って休日一日使っただけってことになってしまいかねません。
 もしかしたら、ターゲットとするレースに向けた高強度練習の一環として、ピーキングせずにレースに出場したら、案外タイムが遅くて落ち込んじゃった、なんてこともあるかもしれません。これはレースに限らず、レース数日前の練習が上手くいかずに自信を無くしちゃった、ってケースも良くあります。もちろん逆に、思った以上に良くて気分が上がることもあるでしょう。これは結果がシビアに数字として出る競技特性上、仕方ないことです。この時、今までやってきたことの全体に目を向ければ、「ちょっと疲れがたまってきたかな」とか、「レースに向けてもう少し練習を調整してみよう」などというような柔軟な考えが生まれるはずですが、物事が上手くいくとき、いかないときほど一瞬の感情で物事を判断しがちになってしまうものです。調子は少なからず上下しますし、それまでに積み上げてきたものが大事な競技なので、割り切ること時には大切です。合理的に分析したのち、次へと活かしていきましょう。

 

2. 特異性の高い練習

 試合期では、ターゲットとするレースに向け、特異性の高い練習の頻度を高め、統合を図っていきます。この点、同種目のレースに出場してみるというのは、最も特異的なアプローチと言えます。ただ、目標とするレースがイーブンペースで回るレースだけとは限りません。例えば上が繋がっている選手権など、一定の順位以上を目指すことに価値があるレースでは、ラストの競り合いで勝負が決まることが多いでしょう。その時は、そうした特殊なレースで勝つために必要な要素に対し、また新たにアプローチしていく特異性の高い練習が必要でしょう。
 以下、各種目の各パターンをさらうのは難しいため、1つの例として1500m走を取り上げます。
1500m走は強度の高い有酸素性の種目であるのと同時に、スピードと無酸素性エネルギー供給にも大きく依存します。およそ好気的代謝が20%、嫌気的代謝が80%あたりになると言われていますが、実際のレースでは、大きな集団を形成したままレースが進み、ラストスパートによって勝敗が決するケースも多いです。 1500m走で必要となる能力については、レースパターンによって異なってくると言われています。この点、肌感覚でもなんとなくわかるような気がするんじゃないかと思います。

・イーブンペースに近い進行:①ランニングエコノミー 、 ②vVO2peak(VO2peakでの走速度)
・前半抑えて入ってラストの叩き合い:①速筋線維割合、②最大酸素借(酸素負債)、③vVO2peak

*「最大酸素借」(酸素負債):
 そのほとんどが運動中、筋において過剰産生され蓄積した乳酸を酸化して水と二酸化炭素代謝するため運動後に取り込まれる酸素であり、その運動時に増加する乳酸は有酸素性機構で補いきれないエネルギー需要を無酸素性機構が代償するときの解糖系の代謝産物であるため、無酸素性エネルギー供給能力を表す一般的な指標。

 

 まず、どちらのレースパターンにおいても、vVO2peakを高めることが求められます。すなわち、これ以上はしんどいなって思うペースが速ければ速いほど良いよねってことです。仮に4’00”を目指す場合、66”/周でこれ以上はしんどいと思っていては62~64”/周でしんどいかもと思う人には勝てません。62~64”/周でいかに力を使わずに残せるか、62~64”/周の余裕度をいかに上げていけるか、が大事みたいな表現の方が分かりやすいかもしれません。故に、複数のアプローチが考えられると思いますが、一番シンプルなのはレースペース付近の練習を積んで、その速度帯で約4周できるよう身体を最適化させていくことです。300m*5*2や500m*6、600m*5、800m*4、1200m*2など分割した形で馴染ませていくことが一つ、明快な方法でしょう。これはラストスパートを高めるためにも必要なことです。どんなに高性能な車でもアクセル全開でずっと行けるわけではありません。ここぞというときに強いアクセルを踏めるようには力を溜めることが重要で、最後まで足をしっかり残すことができれば、ラストスパート勝負でも勝てることを意味しています。
 一方で、前半抑えて入ってラストの叩き合いで勝負が決まるレースにおいては、イーブンペース近く進行するレースにはあまり影響の少ない、速筋線維割合と最大酸素借(酸素負債)の能力が必要とされます。
 まずは速筋線維割合について簡単に。筋肉は無数の筋細胞(線維)によって構成されており、その筋線維は大きく速筋線維と遅筋線維の2種類に分類することができます。名前の通り、速筋線維は速いスピードで収縮する筋肉で発揮する力も大きいですが、大きな力を長時間発揮し続けることはできません。対して、遅筋線維は収縮するスピードは遅く、発揮する力も小さいですが、力を長時間発揮し続けることができます。そんな筋線維が私たちの筋肉には混在しているのですが、その数の構成比は筋肉の種類や、個人によっても異なります。そして、この構成比は先天性のものでトレーニングによってはほぼ変えられないという見方が多いです。(近年、遅筋線維と速筋線維の組成をトレーニングによって変えることができるとした研究あり。)中間筋(タイプⅡa筋線維)に刺激を与えてより速筋寄りの性質を高めることはできそうですが。以上を踏まえて、速筋線維割合はと言うと、どれくらい短距離が速いかみたいな把握で良いと思います。ラストスパートで勝つためには当然、絶対的なスピードが必要な要素だよねってことです。ただ、あくまで必要条件で、十分条件とはなり得ないことも大切です。
 次に、最大酸素借(酸素負債)へのアプローチです。最大酸素借(酸素負債)については上を参照。基本的には、酸素負債しながらラストスパートをかける状況を意図的に作ることが大事です。特に長距離選手の多くは、リミットを外した切り替え方が甘い傾向にあります。できる限りラストスパート段階までの再現性を高め、切り替え方を学ぶことが最大酸素借(酸素負債)を高めるアプローチだと言えるでしょう。[800~1200m(2:50/km~3:00/km)-400m(free)]*2~3や、[1000m(2:40/km~2:50/km)+300m(free)]*2~3など、残した力を上手く出し切るような練習が有効です。

 

3. 刺激走

 刺激走とは、レース前日や数日前に、レースよりも短い距離をレースと同じかそれより少し早いペースで走ることを指します。長距離選手はよく1000mを入れたりします。一般的には、「調整で練習量を落として、直前に刺激を入れて体を動くようにするため」と認識されていますが、これは別にエビデンスのある話ではないように思います。おそらく、元は誰かがなんとなく始めたことが、経験知として伝承され、いまでも多くの人が取り組んでいるものだと考えられます。正直、刺激走に効果があるかはわかりません。仮に学術的に効果があるというエビデンスが発表されたとしても、個人レベルで普遍的かはわかりません(人によって効果がある人とない人とむしろ逆効果になる人がいるかもしれません)。
 ひとまず、刺激走の考え得る意味や効果を挙げます。


・神経系への刺激:スピード練習が少なくなった結果、鈍ってしまった神経系を速い動きで動員させ、レース本番でも神経系が動員できる状態にする。(1000mの速度帯でどの程度動員されるのか。短い距離の流しとの違いは何か。)
・心肺機能への刺激:量を減らしている中で、心肺機能の低下を防ぐため、心肺へ短時間負荷をかける。(Jogさえ続けていれば数日程度で心肺機能はほぼ衰えない可能性。)
・脚を「軽く」する:経験則として刺激走の翌日や翌々日に脚が軽くなるような感覚を覚える人がいる。(これは神経系の作用か。脚が「軽く」なり、かえって本番でオーバーペースになってしまう可能性。)
・過去のレースと同様の精神状態を作る:レース直前に同じ練習をすることで、いわゆるルーティンワークとして、レース本番に力を発揮できる精神状態を作る。(別に刺激走でなくても良いか。)

 この点、私は、刺激走をすることでいいイメージが持てたり、レースに前向きな気持ちになれたりするなら、刺激走には大きな意味があると思います。一方で、逆に刺激走をやると疲れてしまうと感じる場合はやらない方が良いでしょう。義務感だけでやっていても仕方ないので。
 仮に、本格的にタイムを狙うレースまで時間があるのなら、色々試してみるのがおすすめです。もしも、しっくりくるものがあったなら、それを毎回やってみるのもいいですし、「いまは疲れているから軽くしておこう」等、体の感覚に正直に従うというのもありだと思います。
 また、このときに重要なのは、直前に何をやろうと状況はそこまで変わらないということです。走力は長期的に積み上げてきたトレーニングに裏打ちされるものであって、短期的な調整によってパフォーマンスが極端に上がることはありません。それまでの成果を当日に発揮するための準備をすることこそが、直前期に求められることでしょう。

 

4. 調整期間の心構え

 目指すべきレースに向けて調整している以上、レースに出られなくなってしまっては本末転倒です。目的がより良い結果を残すことだとして、まずそのために絶対に外せない手段はレースに出られる状態であることであり、より良い(と考える)トレーニングを消化することは大切ですが、まずは健康かつ故障なしの状態を保つことが重要です。目的と手段を間違えないようにしましょう。
 とりわけ、先述のテーパリングは「攻めの戦略」というよりは「守りの戦略」です。すなわち、テーパリングによって積極的にパフォーマンス向上効果を狙っていくというよりは、最後の最後で失敗してやらかさないことが重要であるということです。これまで長い期間をかけてトレーニングを重ねてきた成果を、最後の数週間で台無しにしてしまわないために、失敗しないための準備をしておくという姿勢が大事です。調整期間において、トレーニング負荷を増やすべきか、減らすべきか迷った場合には、やらかさないことを最優先に考えて判断しましょう。テーパリングは奇跡を起こす魔法ではありません。