メモ

以下、なんとなく考えたこと・感じたことをなるべく整理した形で文字に起こして視覚化しました。ツッコミどころ満載かと思いますので、出来たら香りだけ感じてもらって、参考程度にお願いします。それっぽく書いてあっても、今はまるっきり意見が変わってるなんてことがよくあります。人は変わるからね、

トレーニングを始めるにあたってやっておくべきこと

〈前提〉
 勝つために必要な能力(ゴール)をいくつかの要素に分類し、具体的数値として可視化して、現状でそれらの要素がどの程度レベルにあるか(スタート)を定量化せずにトレーニングを始めることは、正気の沙汰ではありません。スポーツとは、選択肢を探り、組み合わせ、勝利確率を上げるものと言えます。スポーツで成功するために必要なのはチョイス、選択すること。また、より良い選択をするために自分自身をよく知ること。そして、自分がどこにたどり着きたいのか知ることが求められます。

 

 

目標を立てよう(ゴールの明確化)

1. 目標設定の種類

 とにもかくにも、まず、明確な目標を設定する必要があります。トレーニングの目的をいかに明確に設定できるかにおいて、トレーニングの精度は大きく変化します。ゴールを決めなければ、トレーニングは目的の欠くものになってしまうでしょう。目標設定の質を高めることで競技力向上を後押しすることができますし、目標設定の質が悪いために競技力が向上していないこともあります。前提として、目標達成した場合に勝利条件に近づくように設定されなければならなりません。当たり前のように聞こえますが、本来目指すべき勝利条件からずれているものや、ときに遠ざかるものが目標に置かれることがあります。このように設定してしまうと頑張っても意味がない、あるいは、頑張れば頑張るほどむしろ勝利から遠ざかるということが起こり得ます。
 目標をよく観察していると、2種類あることに気づきます。

① ターゲットとしての目標
 ターゲットとしての目標は、本当にそれを達成するために設定します。この目標は達成を具体的に目指しているものなので、必ず逐一、振り返らなければなりません。ここで重要なのは、仮にうまくいっても振り返り分析することです。目標設定は持っている情報から予測したものであり、もし上振れしたとしても予想が間違えているという点では下振れと変わりません。

② 願望としての目標
 願望としての目標は、原因を仮に探しても、そもそもの目標が高すぎたからということにしかなりません。このような目標は、自らを鼓舞し指針表明をするのが主目的なので、厳密に戦略を立ててそれを達成する想定でいるという性質のものではありません。


 ①ターゲットとしての目標と②願望としての目標の違いを分かっていれば問題は起きませんが、違いがわからなくなると、大変な歪みが生じることになります。以下、目標達成に向けて戦略を練っていきますが、②願望としての目標は現状から出発していないので、つじつまが合っておらず、当然たくさん矛盾が生まれてきます。故に、①ターゲットとしての目標を前提に話を進めていきます。
 目標が持っている要素には、(ア)難易度と(イ)状態と(ウ)期間があります。
(ア) 難易度:どの程度難しいか。
(イ) 状態:具体的にどのような状態を目指すのか。
(ウ) 期間:いつそれを達成するのか。
 以上の要素は明確化させておく必要があるでしょう。
 その後、目標達成への方向性を定めていきます。目標達成のために必要な要素をいくつかに分類して分析し、具体的な数値として数値化する必要があるわけです。テストに向けて過去問を探すように、まずは敵を知りましょう。目標とするレースがイーブンペースで回るものなのか、ラストの競り合いが肝となるものなのかでも、目標達成に向けた必要な要素も幾分か変わってくることでしょう。

 

2. 目標設定のプロセス

 そもそも、目標設定にあたるプロセスについては2通りが考えられます。

トップダウン:目標から逆算して練習内容を決める感じ。
ボトムアップ:現状を基準に練習を積み上げていく感じ。

 ほとんどの人がトップダウンの目標設定を行なっていて、また、ある程度上手くやって来れているのだと思います。しかしながら、それはそれだけの能力があったからに尽きます。実際にそれのみです。それを踏まえると、トップダウンの目標設定には注意点が2つあることがわかります。

①強化にかかる時間がわからない。
 目標地点に対して、いくら最適な戦略を立てたところで達成に1年かかるのに、3ヶ月で計画しても頓挫するのは当然です。
②目標地点が自分の能力で到達可能なのかわからない。
 誰でも無限に速く走れるわけではなく、それぞれどこかに固有の限界点があります。仮に限界点が5km15'00"の選手が5km13'00"を目標にしても頓挫するのは当然です。
 

 以上、必要な到達期間がわからない、かつ目標地点が届き得る範囲内なのかどうかもわからないトップダウンの目標設定は難しいものです。
 一方で、例えば、故障明けから以前の水準に戻す場合。到達地点が保障されていて、時間も比較的十分に取れる場合。標準記録等上から目標設定が避けようもなく降ってくる場合も多くあります。また、モチベーション維持に不安がある選手には、トップダウンで先行きをわかりやすく示した方がモチベーション向上に繋がりやすい印象です。

 

3. 駅伝に向けた目標設定のプロセス

 以上を踏まえ、如何にして駅伝の目標設定にあたるべきかについてです。
 Whoについては選手自身に限ります。
 Whenについては早ければ早い方が良いでしょう。先行きをわかりやすく前もって示した方が、モチベーション向上に繋がりやすいからです。
 Howについては、もちろん、話し合いになるでしょう。おそらく、想定される選手の予想タイムを足して予想ゴールタイムを目標にするのが普通でしょう。これは各選手がトップダウンで目標を決めている例です。
 もし、ボトムアップで駅伝の目標を決めるのであれば、Whenにおける早ければ早いほど良いという前提条件は崩れます。もし明日駅伝があったとしたら誰が何区を走ることになるか、もし走ったらどれくらいかを計算して合計タイムを出す。これを定期的に繰り返す。調整期間に入り、ある程度選手も区間配置も予想タイムも決まったところで最終的な目標タイムを出す。これはこれで新しい形と言えそうです。
 駅伝での目標設定をトップダウンで正しく行うためには、各選手がトップダウンで正しく目標設定出来ていなければなりません。駅伝に限ったことではありませんが、目標は数値化あるいは可視化させた方が良いでしょう。また、それはチーム全体で共有した方が良いです。誰がどれくらいで走れるのかはチームとして知っていなければならないし、どれくらいで走るつもりでいるのかも把握していた方が良いです。練習においても、試合においても、「この人がこのくらいだから私はこのくらいでは走れる!」みたいに参考になることでしょう。また、もし練習状況から想定される目標タイムと選手自身が立てた目標タイムが大きくかけ離れている場合は、素直に指摘出来る環境を作るべきです。主観と客観を擦り合わせるのは思っている以上に難しいため、そういった点で、他人からの客観的な評価は貴重であると言えます。

 

現状を把握しよう(現状の明確化)

 続いて、現状のリソースを確認します。トレーニングの環境や費やせるものや時間など資源がどれだけあるか、目標としているものはどこにあるか、そして現状どの位置にあるのか、正確に把握することが重要です。現状、目標達成のための要素がどの程度のレベルにあるのかを定量化していく際には、様々な視点・指標から現状を把握する必要があります。現状を把握して目標とする各能力の数値を見ると、すでにクリアできているものからできていないものまであるでしょう。仮に、目標達成に必要な各能力を100点満点として、現状80点のものを10点上げるにはかなりの努力が必要ですが、40点のものを10点上げる際にはそれほどの努力は必要とされません。また、80点のものはあと20点しか上げられませんが、40点の場合にはあと60点上げる余地があります。そういう意味で、現状の達成度と目標を把握して、正しいアプローチを選択していくことが求められます。
 例えば、(全力で)手でグーとパーを繰り返す運動では、時間とともにグーパーできる速度を維持できなくなりますが、主観強度はさほど高くはありません。それは供給できる酸素に対し消費する筋肉が少ないからだと考えられます。この点、何がボトルネックとなって出力が落ちているかによってトレーニング戦略が異なります。もし、もっと長く、(全力で)手でグーとパーを繰り返せるようになりたいと思ったとき、心肺機能にアプローチする人は少ないでしょう。現状の課題と的外れなトレーニングとはそういうことを必死にやっているということです。

 

レーニングプログラムの枠組みを考えよう(期分け)

1. 各周期の概要

 最終的な目標を決めたのち、それに沿った中間目標(短期目標)を設定します。その際、各目標に合わせて期分け(ピリオダイゼーション)をしていきます。期分け(ピリオダイゼーション)とは、最も重要なレースに調子のピークを持っていくために時期によってトレーニングの内容を変化させる手法のことを指します。まずは最終的な目標を決め、そしてそれに向けてマクロ周期全体の概要を決めます。その後、それぞれのメゾ周期やミクロ周期での狙いを考えていきましょう。

 

①マクロ周期
 マクロ周期とは、最高のパフォーマンスを達成するために設定するかなり長い期間のトレーニング周期を指します。マクロ周期は、一般的におよそ1年の期間を要しますが、学生の場合、1年に2回(春季と秋季)のマクロ周期があることも多いでしょう。

②メゾ周期
 マクロ周期はいくつかのより短いトレーニング周期であるメゾ周期に分けられます。メゾ周期とは、数週間から数か月続き、一般的にそれ以前のメゾ周期やそれに続くメゾ周期とは違った独自の狙いを持ちます。それぞれのメゾ周期の長さは、種目の特性や選手の状態、費やすことのできる時間によって変えることが可能です。また、各サイクルに重きを置くべき狙いを定めたのち、当該サイクルにおいてはその狙いのみを行えば良いというわけではありません。サイクルの段階が進行しても、前サイクルで重きを置いたトレーニングを適度に混在させていくべきです。そうすることで、前サイクルで獲得した能力を維持しつつ、新たな能力を獲得していくことができるわけです。

③ミクロ周期
 上のメゾ周期は、少なくとも1つのミクロ周期からなります。ミクロ周期とは、わずか2週間程度の期間を指します。メゾ周期同様、一般的にミクロ周期は、前後のミクロ周期とは異なった独自の狙いを持ちます。

 

2. 期分けのパターン①(「直線型期分け」)

 従来の期分けの典型的なパターンは、アーサーリディアードのトレーニングに端を発している「直線型期分け」です。これはすなわち、基礎構築期に弱い強度でたくさんの距離を走り込み、試合が近づくにつれ練習量を少なし、強度を強くしていくというものです。これを理解するためには、リディアードシステムについて知っておく必要があるため、少し脱線します。
 リディアードシステムは、非常に単純な運動生理学の原則について基づいています。以下、小難しい説明は一切省いて、簡単に解説していきます。人間の代謝システムにはそれぞれ、代謝が速く持続性がないものから、代謝が遅く持続性のあるものまで順番に、①クレアチンリン酸系、②無機的解糖系、③有機的解糖系、④有機的脂肪分解系の4種類あります。①と②は酸素を使わずにエネルギー代謝するため、①と②でエネルギーを作る高強度運動のことを無酸素(系)運動と言ったりします。これはあくまで、細胞内でのエネルギー代謝において酸素を使わずにエネルギーを作っているという意味です。
 リディアードは著書の中で、インターバルトレーニングには即効性があること、また、インターバルトレーニングなしに結果を出すことは難しいことを述べています。一方で同時に、インターバルトレーニングはオーバートレーニングや故障のリスクが高まること、即効性はあるもののすぐにトレーニング効果が頭打ちになることを指摘しています。ではなぜ、インターバルトレーニングの効果がすぐに頭打ちになると考えたのか。1つの根拠としては、人間の体が抱えられる酸素負債の量が15L~20Lに決まっているからということが挙げられます。あるペースで走ったとき、いかに酸素負債を抱えるかは最大酸素摂取量(VO2max)に依存します。(最大酸素摂取量(VO2max)については先述済み。)
 例えば、Aさんの除脂肪体重が60㎏で、最大酸素摂取量(VO2max)が1分当たり4Lだとしましょう。最大酸素摂取量(VO2max)とは、どれだけ有気的代謝を使ってエネルギーを作れるかを示す指標であり、最大酸素摂取量(VO2max)が1分当たり4Lと言うのは、1分間に最大4Lの酸素を使ってエネルギー代謝が出来るという意味です。この時3:00/kmで1km走ったとき、Aさんが必要とするエネルギー量は、有気的代謝だけでエネルギーを賄うとした場合には酸素5リットル分に該当します。しかし、Aさんの最大酸素摂取量(VO2max)は1分当たり4Lなので、毎分1L分の酸素負債を抱えることになります。この有気的代謝で補えない分のエネルギーは無気的代謝によって賄われます。このケース、仮にAさんがこのまま5000m走り切ったときには、15L分の酸素負債を抱えることになります。もしAさんの抱えられる酸素負債の先天的な限界値が15Lであれば、これ以上無気的代謝を向上させることは出来ないため、有気的代謝を向上させることでしか競技力は向上できません。遺伝的に抱えられる酸素負債の量が人より多くても20リットル程度までしか増やせないため、向上はそこまで見込めません。一方で、有気的代謝の向上にはかなりの余地があります。これは、高校時代の5000mのレースペースで、社会人になったらハーフマラソンを走り切れるようにまでなったというケースが頻繁に見られることからも、容易に想像できると思います。すなわち、高校時代は3:00/kmで走れば毎分1Lの酸素負債を抱えていましたが、有気的代謝の向上により酸素負債を一切抱えずに走れるようになったという理屈です。実際にはその他、多様な要素が考えられますが、以上の説明により、有機代謝に主眼を置くという流れになるわけです。
 一定程度のペースで長い距離を走りこむことによって、毛細血管やミトコンドリア、心筋を発達させ、最大酸素摂取量(VO2max)を向上させる土台を作る。これがリディアードシステムの根幹となる考え方です。
 有酸素能力の向上のために、週100マイルの走り込みを行うのが、リディアードシステムの大きな特徴です。この100マイルの走り込みは、決してゆったりとしたペースではなく、疲れ切ってしまわない程度に速いペースです。具体的なペースについては、自分の体の感覚に従って決めるべきだと言っています。トレーニングの目的はトレーニング刺激に対する体の適応を引き起こし、能力を向上させることになるため、この目的を達成するには体の感覚に従って、トレーニングするのが最も正確だということでしょう。
 前置きが長くなりました。「直線型期分け」について。リディアードは、シーズン全体としては、まず長い距離の走り込みを積み重ね、有酸素土台を作る時期があり、そこからスピードトレーニングに移行するためのヒルレーニングの時期があり、インターバルトレーニングの時期があり、タイムトライアルを含む調整期があり、そしてレース期があるという形でトラックレースにも半年くらいかけて仕上げていきます。基本的なガイドラインには、最低3か月の走り込みを経てから、4週間のヒルレーニング、4週間の無酸素トレーニング・スピードトレーニング、6週間の調整期を経てレースへと入るとあります。
 トレーニングプログラムを運用していくにあたって、リディアードは、多くの選手やコーチが最高の結果を出すために時間をかけて仕上げていく忍耐に欠けると指摘しています。シーズン前半に早く低く仕上げ過ぎて、シーズン後半で得られるはずだった最高の結果を逃してしまうことが多いと。また、仮に、目標とするレースで失敗したとしても、次の目標とするレースまで半年かけて忍耐強くトレーニングする必要がありますが、若い選手の中には失敗を取り返そうと目先のレースに心を奪われ、もう一度半年かけて準備する我慢が出来ないと、言っています。

*タイムトライアル:
 リディアードは、有酸素ランニングで有気的代謝を高める、インターバルトレーニングで無気的代謝とスピードを高める、これだけでは不十分だと考え、最後にこれらを統合し、レースに向けて調整するタイムトライアルの必要性を説明しています。人間の体は基本、同じ動きを繰り返しているとその動きを効率よくするという特徴があります。有酸素ランニングはレースよりも遅く長く走りますし、インターバルトレーニングは休憩を挟んで短い距離を速く走ります。しかしながら、レースは休憩をはさまずに速く走る必要があるわけです。
 注意が必要なのは、ここで言うタイムトライアルは全力で走る練習を指すわけではないということです。ここでは、一定のペースで自らコントロールできるペースで速く走る練習を指しています。距離も目標とするレース距離の半分程度です。レースの距離の半分をレースペース程度でリラックスして走り体にその感覚を覚えこませ、レースに仕上げていくという感覚で捉えてもらえばと思います。

 

3. 期分けのパターン②(「漏斗型期分け」)

 その他、有力な期分けのパターンとしては、レナートカノーヴァに代表される「漏斗型期分け」があります。これはすなわち、トレーニングにスピードと持久力の2つの軸を設け、トレーニングの時期が進行していくにつれ両軸を融合させ、狙いとしたレースに必要な持久力とスピードを獲得するというものです。基礎構築期に、弱い強度での長時間のランニングで持久力を鍛えることと並行して、最大出力でのランニングでスピードを鍛えていきます。その後、試合が近づくにつれ、持久力、スピードを鍛える両トレーニングのスピードを、狙いとしたレースのペースに接近させていきます。また、練習量に関しては、トレーニングが進行していくにつれ増加させ、前試合期をピークに、試合期にかけ減少させていきます。このようにすることで、トレーニング全期間にわたって、高い速筋の動員率が維持され、潜在的なスピードを常に発揮できる状態になるため、トレーニングの効率が向上するという仕組みです。1つのシーズンで狙う試合が複数ある場合等には、有効な期分けのパターンでしょう。
 どちらも、特定の走速度(ほぼレースペース)をレースの時間だけ持続させることを目指す点で共通しています。一方、そのプロセスに関して、リディアードは有酸素ベース→筋持久力と基礎を作ってからインターバルでこれらを融合させ、TTで特異的な仕上げに入るのに対して、カノーヴァは期分けが進む過程でこの特定のペースでだんだん持続できる方向性へとシフトしていく点で差異があると言えそうです。