メモ

以下、なんとなく考えたこと・感じたことをなるべく整理した形で文字に起こして視覚化しました。ツッコミどころ満載かと思いますので、出来たら香りだけ感じてもらって、参考程度にお願いします。それっぽく書いてあっても、今はまるっきり意見が変わってるなんてことがよくあります。人は変わるからね、

最大酸素摂取量(VO2max)について

 

1. 最大酸素摂取量(VO2max)とは

 最大酸素摂取量とは単位時間あたりに活動筋によって利用されるO₂の最大量と定義され、(1分あたりの最大心拍数)×(1回あたりの最大拍出量)×(動静脈酸素較差)で求まります。つまりは、最大酸素摂取量は心臓の寄与が大きいわけです。

 

2. VO2maxが持久力の指標として重要視されるまでの経緯

 持久的ランニングにおいては、「酸素を取り込み、筋肉へ多く送り届けて活用する能力が重要である」という理論が1920年代から提唱されていました。簡略に、「心肺をはじめとする呼吸循環機能の高さが重要」という意味です。
 ランニング速度によって酸素の摂取量がどのように変化するか、トレッドミルを使って実験が行われました。その結果、しばらくは、速度増加により摂取量も増加、ある摂取量に到達すると、それ以上どれだけ頑張っても摂取量は増加しない(頭打ちになる)ということがわかりました。ここで頭打ちになった量が最大の酸素摂取量がVO2maxです。この「頭打ちになる」という事実が発見されたとき、研究者はこぞって「VO2max=持久力の限界値」であると考えるようになりました。VO2maxという概念が見つかった時期は、VO2maxが唯一測定可能な量であり、測定が比較的容易であること、また、実際に、長距離走者やクロスカントリースキーといった持久的アスリートのVO2maxが、一般の人々の値と比べて極めて高いといった結果も、この考え方が支持されるのを手伝いました。結果として、「最大酸素摂取量は持久力の重要な指標だ!」という結論になったわけです。

 

3. 心臓のはなし

 心臓は、全身に血液を送り出すポンプのような役割を果たしています。心臓は不随意筋(自らの意志で動かすことができない筋肉)でできており、心臓が大きいほど力強く収縮するので、一回あたりの心拍出量も大きくなります。
 高橋尚子選手の現役時代の心拍数は35回程度だったようです。一般の大人の平均が60~70程度と言われているので約半分であることがわかります。こうした徐脈は「スポーツ心臓」と言い、持久系のスポーツをしている人に起こりやすい適応です。「心臓は筋肉でできているため、連続的なストレスに対しては筋線維を増強することで対応しようとする。おおむね1日1時間を越える心肺系運動を毎日続けた場合、心拍出量は増加し、心室内腔は拡大し、壁肥厚や筋の増大が見られる。」(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/スポーツ心臓)ということで、「スポーツ心臓」とは平均的な人よりも大きな心臓であり、心拍出量が大きいため、少ない回数で必要な血液の量を供給できます。最大心拍数を求める式として「220-(年齢)」というものがよく知られていますが、これについては統計的に算出された推定式ではありますが、大体の目安として考えるのが良いと思います。
 トレーニングによる適応の1つに、心臓の発達があります。心臓は筋肉なので鍛えれば強くなるということを意味します。心拍出量が上昇しますが、心拍出量があまりにも大きくなってしまうと、身体の各地で酸素と二酸化炭素との交換を行う時間がなくなってしまうので、トレーニングを積んでもあるところ以上には心拍出量は大きくならないようです。
 心臓を発達させるためには、心臓に負荷をかける必要がありますが、必ずしも最大心拍数に到達するまで負荷をかける必要があるわけではなく、最大心拍数に到達するような運動はかなりきついと感じるため、長時間行うことができないことから、最大心拍数に到達しなくとも、長時間行うことで負荷をかければよいと思います。

 

4. 血管のはなし

 LSD(Long Slow Distance)について「ゆっくり走ることで毛細血管が増える」という話を聞 いたことがあると思います。身体の各地へと血液を届けるのは毛細血管であり、心臓から送り出された血液が、各器官へどの程度行き渡るかは、それぞれの領域にある毛細血管の量に依存します。速いペースで走ると、エネルギーを素早く賄うために酸素が多く必要となり、酸素交換を手早く行うために心拍数が上昇します。このため、心臓に負担はかかりますし、呼吸量も増えるため肺や呼吸筋も鍛えられます。身体の各地の毛細血管にとってはせわしなく血液が流れてきて、その中から酸素を拾えるだけ拾っていくということになります。一方で、ゆっくり走ると心肺にはそこまで負担はかからず、毛細血管へ流れてくる血液はゆっくりしたものになります。そのため、酸素を拾うのに十分な時間があります。これを長時間続けることで、各器官で毛細血管から酸素を拾う能力を高めようとする適応が起き、毛細血管の量が増えます(血管が開通していきます)。ゆっくりだと長時間行うことができるというのがポイントです。速いペースでも毛細血管を増やす適応が起こらないわけではないですが、ペースにはあまり関係なく運動時間によってどの程度適応が起こるかが決まりやすいようです。ジョグも速ければいいとは限らないということは覚えてほしいと思います(ジョグの時間を減らしてまでペースを上げることは考えなくていいという意味です)。

 

5. 血液のはなし

 血管の次は血液。酸素は血液中の赤血球に含まれるヘモグロビンが運搬します。ヘモグロビンが酸素と結びついて酸素をキャッチし、それを酸素が必要なところで放出します。酸素の結びつく量は血液中の酸素圧(酸素濃度でも可)、ヘモグロビンと酸素の結びつきやすさによって決まります。また、ヘモグロビンと酸素の結びつきやすさは血液の温度、pH、二酸化炭素濃度などで決まります。つまり、ヘモグロビンと酸素は化学平衡の移動によって結びついたり離れたりするので、上記のような条件によって結びつきやすさが決まるということです。ヘモグロビンと酸素が結びつきやすいほど、多くの酸素を運べて有利なように見えますが、結びつきやすいということは放しにくいということでもあり、せっかくたくさん運んでも筋肉で放出される量はそこまで多くならないということもあります。バランスが肝要です。
 貧血になったことのある人は、血液検査でヘマトクリット値(血液中の赤血球の割合)を気にすると思います。長距離ランナーは一般の人と比べて、血液検査でヘマトクリット値が低く出る傾向にあります。原因としては、①実際に赤血球が減っている(貧血になるのはこの場合)、②(見かけ上)血液が薄くなっている、の2つがあります。①赤血球が地面からの衝撃によって破壊されていく結果、貧血になり、十分に酸素を運ぶことができないためにパフォーマンスが大きく低下してしまうケース。②赤血球は持久的トレーニングによって増加しますが、同時に血液の粘度が高くなることにもつながり、血流の速さが遅くなり、酸素をスムーズに運ぶためにはマイナスに働きます。そのための適応として、赤血球が小さくなり、さらに血漿が多くなります。血漿とは、血液中の液体で、血液を遠心分離にかけたときの上澄み液を指し、血漿が多くなると粘度が下がります。つまり、赤血球が増加に対応して血漿も増加して粘度の上昇が抑えられるということです。この結果、血液が見かけ上薄くなったように見えるというケースです。
 男性と比べて女性は最大酸素摂取量が小さいことがわかっています。様々な要因があるようですが、女性が男性より体重1㎏あたりおよそ21%ヘモグロビンが少ないことが影響すると言われています。血液によって運ばれるO₂の98.5%はヘモグロビンによって運ばれるので、ヘモグロビンが多いことはよりO₂を運搬できることを意味しており、血流を計算すると、女性は男性よりも循環しているO₂が11%少ないそうです。また最大酸素摂取量は加齢とも関係が深いとわかっています。特別な活動をしていないと25歳から年1%ずつ最大酸素摂取量は低下すると言われています。この主な原因としては、10年間で6拍減少するということ。つまりは、1回拍出量が増加しなければ最大心拍出量は減少することとなり、結果として、最大酸素摂取量が低下するということ。他には、筋細胞が急速に老化し筋力が低下することや、神経系の機能の低下することによって引き起こされるとか。

 

6. VO2maxの改善

 最大酸素摂取量の改善とは。かつて、最大酸素摂取量の改善は「最大心拍出量の増加」を指す、つまりは、高強度トレーニングによって改善されると言われていましたが、近年、研究が進むにつれ、低強度トレーニングによっても最大酸素摂取量は改善されることがわかっています。そもそも最大酸素摂取量の改善の要素としては、最大運動時の心拍出量を増加させること、1回拍出量を増加させること、より酸素を含んだ血液(総ヘモグロビン量の多い血液)をより多く送り出すことが、まず、考えられます。その他、ミトコンドリアのサイズ、量を増やす、毛細血管の密度を向上させることで、動脈で送られてきた酸素を筋肉で使える量が多くなるので、静脈の酸素量がより少なくなり最大動静脈酸素較差を大きくさせることがあるでしょう。酸素の使用率はほとんど毛細血管量によって決まると言われているからです。
 さて、毛細血管と最大酸素摂取量との関連についてです。毛細血管量の増加は、最大酸素摂取量の式の中の「動静脈酸素濃度差」に影響を与えます。先述したように、毛細血管量が増えると血液から取り出せる酸素の量が増えるということです。酸素の使用率はほとんど毛細血管量によって決まることがわかっています。最大心拍数に到達するようなペースでなくとも、心臓の発達だけでなく、毛細血管の発達によって最大酸素摂取量の増加には繋がるということです。

 

7. VO2maxは持久的パフォーマンス向上にどの程度貢献しているのか

 では、ここで「VO2maxは、持久的パフォーマンスの向上を目指すに当たって、どの程度役に立つ指標なのか?」、「本当にVO2maxを伸ばすのを目指すことが持久的パフォーマンスの向上につながるのか?」を考えます。ここまでの話を聞くとVO2maxは持久的パフォーマンスに大きな影響を与えていることが明白であるように感じますが、近年、そこまで単純でないことがわかってきています。以下、5つの理由。

① 最大酸素摂取量以外の要因でパフォーマンスの限界が決まっている可能性がある

 被験者(普段から持久的トレーニングを行っている人)の最大酸素摂取量と持久的パフォーマンスを予め測定しておきます。その後、血液を摘出し、最大酸素摂取量を測定しました。当然ながらヘモグロビンの量は減少しました。また、最大酸素摂取量も減少しました。平常時のトレーニングを継続して2週間後に再び測定を行いました。最大酸素摂取量は血液の摘出前に比べて同程度の値まで戻りました。ところが、ヘモグロビン量は元に戻っていませんでした。また、 持久的パフォーマンスも元に戻っていませんでした。
 血液が元に戻っていないのに最大酸素摂取量が元に戻りました。血液が酸素を運ぶ話は既にしました。また、最大酸素摂取量は最大心拍数、最大心拍出量、動静脈の酸素濃度の差の最大値の積で求められることも説明しました。血液が摘出されると最大酸素摂取量が減少するのは身体を循環する血液の量が減るのが原因と考えられます。運べる酸素の量が減ると考えれば納得です。その後、最大酸素摂取量が元に戻るということは、ヘモグロビン量の減少を他の要素でカバーしているということです。それは、2週間の間に何か他の能力が伸びたから、ということになるのでしょうか。興味深い点は、パフォーマンスは戻らなかったことです。すなわち、最大酸素摂取量以外の要因でパフォーマンスの限界が決まっているらしく、その要因はどうやら血液量を減らしたことには関係していそうです。以上をまとめると「血液量の減少に対して何らかの適応が起き、その結果最大酸素摂取量は(何故か)元に戻ったが、その適応は持久的パフォーマンスにはプラスにならなかった」といった感じでしょうか。

 

② 酸素摂取量が全ての場合で頭打ちになるわけではない

 トップクラスのサイクリストに、一般には最大酸素摂取量に到達するとされる最大強度での持久的運動を行わせ、そのときの酸素摂取量を測定します。約半数の被験者はトレーニング中に酸素摂取量がプラトーに達した(=酸素摂取量がある値で横ばいになった、つまり最大酸素摂取量に到達した)のに対し、残りの被験者は 最後まで最大酸素摂取量に到達しませんでした。
 すなわち、約半分の被験者に、「限界まで速く漕いでいるのに、酸素摂取量が頭打ちにならない」という現象が見られたということです。これは最大酸素摂取量に到達する前に、他の何らかの要因で持久的パフォーマンスが限界に到達している、すなわち、彼らにとって、持久的パフォーマンスの限界はVO2max以外のところで決まっているということを意味します。ひとまず「非常に高い強度においても、最大酸素摂取量(だけ)では持久的パフォーマンスを測れない」ということにします。

 

③ 運動のやり方によって異なる値が得られる

 Basset、Boulayらは、自転車走者に対してVO2maxの測定をランニングとサイクリングの両方で行った結果、ランニングとサイクリングでのVO2max測定値が最大13%異なっているという結果が得られました。自転車のプロといえども、ランニングで使う筋肉が全て発達しているわけではないことから、筋肉の発達度に対してVO2maxは影響を受けてしまうと結論付けられます。つまり、純粋な循環器系の能力の指標としてVO2maxを掲げようとしても、筋疲労の影響が入ってしまいます。筋肉が先に限界を迎えるのなら、そこが持久的パフォーマンスの限界になるということです。

 

④ 脳が限界を決めている(セントラル・ガバナー理論)

 Badenらは、20分間のランニングでのVO2max測定を行い、「被験者が何分走るか知っていたか」によって、ランニングの効率、走っていてどの程度きついかが異なり、結果的にVO2maxの値も異なることを明らかにしました。被験者は、初めから20分間走ると知っていた場合、20分というゴールに向かって頑張ることができました。しかし、いつまで走るのかわからない状況では、ゴールがはっきりしているときと比べて「きつい」と感じ、その分ランニングのパフォーマンスも下がっていたということです。ゴールがはっきりしているかで主観的なきつさが変わるのは、「脳が疲労感を生み出し、筋肉の活動を制限している」というセントラル・ガバナー理論で説明されます。「きつい」と感じたとき脚がだんだんと動かなくなるのは、脳が筋肉の出力を制限しているからです。逆に、どれほどきついペースでもラストスパートをかけられるのは、ゴールが近いと脳をだまして「疲労」というリミッターを外すことができるからです。もともと、身体の活動は脳によってコントロールされています。強度の高い運動(短時間に大量の酸素を必要とする激しい運動)は身体への負荷が大きく、これ以上続けると危険だと脳が判断して、生理的限界に到達する前に運動を制限するよう身体に働きかけます。こうして生じる感覚が「疲労」であり、これによってパフォーマンスの限界が決まるとされています。そして、最大酸素摂取量も脳の影響を受けた結果であるなら、どこまで持久力の指標としてあてになるのか、というロジックになります。そしてもし脳の影響が大きいなら、パフォーマンスを決定する要素は修正を受ける必要もあるかもしれません。

 

⑤ well-trained athleteのVO2maxはさほど向上し得ない

 VO2maxの向上について実験が行われることがありますが、被験者としては初心者が用いられることが多いです。これは、初心者はVO2max がトレーニングにより大きく伸びるためで、 well-trained athlete(トップクラスではなくとも、継続的にハードなトレーニングをこなしている人はみなwell-trained athleteです。)に対して同様の実験をしても変化が大きくならず、統計的な誤差を排除することが難しいからです。普段の活動量が低い人が激しい有気的トレーニングを行うとVO2maxが増加します。しかし、誰でも同じように改善するわけでもなく、適応しやすい人と適応しにくい人がいること、さらにそれは遺伝によって決まると報告されています。つまりは、鍛錬者(日頃、ある程度トレーニングを積んでいる人)は、トレーニングによって改善できるVO2maxはそこまで大きくないと言えるでしょう。すなわち、VO2maxを伸ばそう!と言っても、それは初心者にしか有効でない議論となってしまうわけです。

 

〈まとめ〉

 VO2maxは、測定が比較的容易であるために持久力の指標として用いられるようになりましたが、VO2maxは持久的パフォーマンスに対して大きな影響を与えているとは断言できず(ランニングパフォーマンスはVO2maxが伸びなくなってからも向上する)、また、トレーニングを積んだ人(=初心者ではない人)は、トレーニングによって向上させられるVO2maxはそこまで大きくなく((練習が積めているランナーのVO2maxはほとんど改善しないものの、パフォーマンスは向上していく)、すぐに頭打ちになる(VO2maxは初心者がトレーニングを始めた初めの数週間から数か月しか向上しない)ことがわかっています。「VO2maxを向上させるのはVO2maxの速度帯で練習すること」というトレーニング理論は、初心者にしかあてはまらず、また、その初心者でさえ、脚が速くなったのはVO2maxが向上したからであるとは限らない。すなわち、「VO2maxを改善させるための練習」というものが、走力向上の役に立たないことが考えられ、持久的パフォーマンス向上のためにVO2maxをトレーニングするのはいかがなものかとの結論に至ります。
 ただ、これは「VO2maxを伸ばすため」として一般になされる練習は効果がない、と言っているわけではありません。その練習によってパフォーマンスが向上するのは、他にもたくさんあると考えられるランニングのパフォーマンスに関わる要素が同時に改善されるためです。トレーニングによって走力を向上させようとする場合、VO2maxの向上を目指すトレーニング方法は、科学的にはあまり正しくないやり方だと言えるということです。あくまで、「VO2max」という指標がトレーニングをするにあたってはさほど役に立たない、VO2maxだけで持久的パフォーマンスを判断するのは正確さに欠けることがあるという意味であり、心肺機能や酸素運搬能力・酸素運用能力がパフォーマンスとは無関係である(実際に重要な役割を果たしています。)という意味ではないことを強調しておきます。