メモ

以下、なんとなく考えたこと・感じたことをなるべく整理した形で文字に起こして視覚化しました。ツッコミどころ満載かと思いますので、出来たら香りだけ感じてもらって、参考程度にお願いします。それっぽく書いてあっても、今はまるっきり意見が変わってるなんてことがよくあります。人は変わるからね、

ピーキングの基本について

 

テーパリングとは

 ピーキングとは大会に向けてピークを持っていくいわゆる調整のことを指します。中でも、ピーキングの一手法としてテーパリングというものがあります。テーパリングとは、「大会前に練習量を減らすこと」です。テーパリングによるパフォーマンス向上は平均3%と言われています。これらはパフォーマンスを最大限に発揮するためには必要不可欠だと信じられているものです。テーパリングの主な効果としては、酵素の量、筋肉中のグリコーゲン貯蔵量の回復。筋肉へのダメージの回復。免疫力、筋力の向上等があります。
 テーパリングについて10人のコーチや研究者に最適な方法を聞いたら、10通りの答えが返ってくるようなもので、唯一の正解はありません。回復のスピードにも個人差がありますし。しかしながら、共通している重要な点は、「走行距離を減らしても負荷は減らさない」という点です。ただしこの点、走行距離を減らしてから負荷を落とすっていうバリエーションもあったりもします。


*「シャープニング」
 その他、シャープ二ングといった手法もあります。テーパリングは、「走行距離を大幅に減らして負荷を少し上げるもの」であるのに対して、シャープ二ングは、「走行距離をそのままか少し減らして負荷も少し下げるもの」だと定義されます。

 

テーパリングのメカニズム

1. 超回復理論

 適切なトレーニングをすると、その外的な刺激に対して身体が反応して生理学的適応が起こり、体力が向上します。このコンセプトは、目的の体力が筋力であれ、持久力であれ、柔軟性であっても基本的には同様です。そして、このコンセプトを説明する理論(モデル)として一般的に知られているのが「超回復理論」です。「超回復理論」は生理学者のハンス・セリエによって提唱された汎適応症候群(GAS)に基づいており、その考え方をトレーニングに応用したものです。
 「超回復理論」についてざっくり説明すると、まず、トレーニングをすると最初は疲労や筋肉のダメージによりpreparednessは一時的に低下します(①警告反応期)。その後、時間が経つにつれてpreparednessは次第に回復してトレーニング前のレベルにまで戻り、さらに時間が経つと、preparednessはトレーニング前のレベルよりも高いレベルに到達しますよ(超回復=②抵抗期)ってことです。
 「超回復理論」に基づいて考えると、超回復が起こっているタイミングで次のトレーニングを実施するのが重要ということになります。それを繰り返すことで、どんどんpreparednessが向上していくわけです。この点、トレーニングセッション間のインターバルが短すぎる場合には、どんどん疲労だけがたまってpreparednessは低下していくことになります。また、トレーニング後時間が経ち過ぎると超回復状態が消えてトレーニング前のレベルにpreparednessが戻ってしまうので、トレーニングセッション間のインターバルが長すぎるとpreparednessは一向に変わらないままということになります。
 「超回復理論」については、preparednessという1つのfactor(要因)が疲労・回復・超回復によりマイナス方向に動いたりプラス方向に動いたりするというシンプルな考え方になっていることから、「one-factor theory(一元論、一要因論)」と呼ばれたりします。

*汎適応症候群(GAS):
 身体が外的な刺激(ストレッサー)にどのように反応するかを説明したモデルです。身体がストレッサーを受けた時にホメオスタシスを維持するための反応として、①警告反応期(ストレッサーを受けた直後で、刺激に対する準備が出来ておらず、ネガティブな反応がみられる段階)、②抵抗期(受けたストレッサーに抵抗するため、様々な生理的調節が起こり、ストレッサーとストレス耐性が拮抗している段階)、③疲憊期(ストレッサーが強すぎたり長く続いたりすることで、対抗する力が失われ反応できなくなる段階)、の3段階に分けて説明されます。

*preparedness:
 「その時点で発揮可能な体力レベル」のことを指します。ここでは、「パフォーマンスにおける身体的なポテンシャル」にあたる意味として用いています。

 

2. フィットネス-疲労理論

 「超回復理論」が「one-factor theory(一元論、一要因論)」と呼ばれるのに対して、「フィットネス-疲労理論」は「two-factor theory(二元論、二要因論)」と呼ばれたりします。ここで登場する2つのfactor(要因)は「フィットネス」と「疲労」です。「フィットネス-疲労理論」では、トレーニングをすると「フィットネス」は向上する一方で、「疲労」は蓄積すると考えます。そして、前者はプラスの効果、後者はマイナスの効果があり、そのプラスとマイナスの合計がpreparednessとして表面に現れるとします。すなわち、「フィットネス」は向上すればするほど速く走れるし、「疲労」はなければないほど速く走れますということです。
 「フィットネス-疲労理論」の本質を理解するにあたっては、トレーニングに対して、「フィットネス」と「疲労」がどのように反応するのか、その特徴について理解しておくことが必要です。とりわけ、「急性の変化量」と「変化の速度」の特徴が重要になります。

・「フィットネス」
A) 急性の変化量:小さい。
 「フィットネス」は1回トレーニングを実施したからといえ、急激に向上するものではありません。長期間にわたって地道にトレーニングを継続することで、徐々に向上していくものです。
B) 変化の速度:ゆっくり。
 トレーニングによって向上した「フィットネス」は時間が経つとすぐ消えてしまうわけではありません。トレーニング前のレベルに戻るまでには時間がかかるので、比較的長期間にわたって持続しやすいです。

・「疲労
A) 急性の変化量:大きい。
 量の多い、また強度の高いトレーニングを実施すると、1回のトレーニングだけでも疲労は蓄積されます。
B) 変化の速度:速い。
 1回のトレーニングによって蓄積された疲労はいつまでも残っているわけではありません。時間が経つにつれ、比較的すばやく減っていきます。

 以上の特徴を踏まえて考えると、トレーニング直後は「急性の変化量」の差より、「疲労」の変化量(マイナス)が「フィットネス」の変化量(プラス)を大きく上回るため、結果として、その合計であるpreparednessはマイナスになります。これは、「フィットネス」そのものは向上しているのに、それが「疲労」によって隠されている状態です。その後、向上した「フィットネス」は少しずつ低下していきますが、「変化の速度」の差より、それ以上のスピードで「疲労」が減っていくため、preparednessはプラス方向に向かって増えていき、マイナス要因である「疲労」をプラス要因の「フィットネス」が逆転した結果、preparednessはプラスに転じて、トレーニング前のレベルを超えます。このとき、さらに時間が経過してしまうと、マイナス要因である「疲労」はほぼ取り除かれてしまうので、マイナス要因が減る作用によってpreparednessが増えることもなくなってしまいます。こんな理論(モデル)です。テーパリングによって走力が上がったようにみえるメカニズムです。

 

3. 超回復理論とフィットネス-疲労理論

 「超回復理論」と「フィットネス-疲労理論」について、preparednessの動態に着目すると良く似ています。どちらもトレーニング直後に低下し、時間経過とともにトレーニング前にまで戻り、その後トレーニング前のレベルを超え高い状態に到達し、さらに時間が経つと再びトレーニング前のレベルに戻ります。しかしながら、両者は全く異なる考え方です。どちらを信じるかによってアプローチも大きく変わります。特に顕著になるのが、テーパリングの際です。

超回復理論
 「重要な大会の数週間前に負荷の高いトレーニングを実施し、一度preparednessを低下させたうえで、その後は負荷の高いトレーニングはほとんど実施せず、疲労回復に努めることで、preparednessの超回復の山のピークをできるだけ高くしよう」という戦略になります。すなわち、preparednessを挙げるためにはその前に一度落とさなければならないと考え、負荷の高いトレーニングと思い切った休養を組み合わせ、その落とし方が大きければ大きいほど、反動によってその後の超回復も大きくなるはずだというアプローチに行きつきます。


・フィットネス-疲労理論
 「「フィットネス」をできるだけ維持しつつ疲労を減らしていこう」と考え、負荷を減らしたトレーニングを試合直前まで高い頻度で実施していくという戦略になります。負荷を減らしたトレーニングの実施によって疲労はそれほど残さずに済む他、頻度を落とさず定期的にトレーニング刺激を身体に与えておくことで、テーパリング期間中に「フィットネス」が過度に低下することを防ぐことが出来ます。
 なので、例えば、1つの大会に調整していてその大会が終わり、次の大会がすぐそこにあるためその大会に向けてまた調整しないといけない場合、またいつも通り大会後何日か休んでからいつもの通りテーパリングをしていると、「疲労」は限りなく0に近づけているため「疲労」は減少することなく、「フィットネス」のみが低下していくため、走力が上がらない、むしろタイムが遅くなることがあります。

 

想定される例外的なシナリオとその修正案

① テーパリング開始前にあまりトレーニングが積めていない

 学生アスリートで試験勉強や、怪我でトレーニングをしっかり積めなかった、その他イベントで忙しくてトレーニング量が減ってしまった等、あまりトレーニングが積めていないという状況に直面することは多々あります。この場合、テーパリング開始時においては、フィットネスは低く、疲労の蓄積も少ない状況にあると推測されます。そのような状態から、テーパリングを実施してトレーニングの負荷を徐々に減らしていったとしても、上手くpreparednessを高めていくことができないでしょう。これは、テーパリングの本質が徐々にトレーニングの負荷を減らしていくことにより、それ以前に高めておいたフィットネスをできるだけ維持しつつ、蓄積された疲労を除去していくことにありますが、トレーニングをしっかり積めていないのであれば、そもそもフィットネスは高まっていないし、取り除くだけの疲労も蓄積していないため、通常のテーパリングのメカニズムが働いて、preparednessが向上していくことは期待できないからです。

〈テーパリング計画に加えるべき修正〉

・テーパリング期間を短縮する

 そもそも疲労がそれほど蓄積していないので、普段通りのテーパリング期間を設ける必要性は小さいはずです。代わりに、テーパリング期間を短縮し、それまで通常レベルの負荷でトレーニングを継続するという選択肢が有効であると考えられます。

 

・テーパリング期間の長さは変えずに、量の減少率を小さくする

 テーパリング期間中の減少率を抑えると、テーパリングによる疲労除去効果も小さくなってしまいますが、そもそもこのシナリオにおいては取り除く必要のある疲労のレベルがそれほど高くないため、問題になる可能性は低いでしょう。また、量の減少率を抑えるということは、テーパリング期間中のトレーニング量が相対亭に増えることになるため、これによりフィットネスを維持する、あるいはフィットネスの低下速度を遅らせる効果の増大が期待されるでしょう。

 

② テーパリング開始前に通常以上の疲労が蓄積している

 予期せずにトレーニングの負荷が増えてしまった場合、標準的なテーパリングのシナリオと比較して、テーパリング開始時におけるフィットネスのレベルは少し高くなっている一方で、疲労の蓄積も通常より大きくなっていることが予測されます。


〈テーパリング計画に加えるべき修正〉

・テーパリング期間を延長する

 理屈上、疲労減少の促進につながる効果が見込まれます。しかしながらこの場合、意図せずにトレーニングの負荷が増えることで疲労が通常以上に蓄積してしまうシナリオを想定しているので、レースの日程は動かせないことから、それをあらかじめ予測してテーパリング期間を延長するという選択をすることはできないでしょう。

 

・テーパリング期間の長さは変えずに、量の減少率を大きくする

 テーパリング期間中の減少率を大きくすることで、通常よりも疲労除去効果やそのスピードを促進することができるはずです。その結果、テーパリング開始時に通常以上に疲労が蓄積しているケースにおいても、狙った試合までに疲労を除去してpreparednessを最大限に高めることができる、つまり、ピーキングを成功させる確率を高めることができると期待されます。

 

③ ピーキングのターゲットとなる重要度の高いレースが複数あり、その間が数週間しかない

 例えば、重要度の高いレースが短期間に2つある場合。仮に前半のレース(A)に向けて通常のテーパリングをそのまま実施したとしたら、Aではpreparednessはピークに達し、良いコンディションで臨めるかもしれません。しかし、後半のレース(B)に向けては短い時間しか残されていないので、再びトレーニングをし直してフィットネスを高め直し、疲労を蓄積させた状態にしておき、テーパリングを実施してpreparednessをピークに持っていく、なんてことはできません。


〈テーパリング計画に加えるべき修正〉
⇒AとBにおける相対的な重要度がどちらが高いかによって異なります。

・Aの方がBよりも相対的な重要度が高いケース

 まずは、Aに向けて通常のテーパリングを実施します。その後、Bに向けては、プラスの出力である「フィットネス」は少しずつ低下し始めていて、マイナスの出力である「疲労」はほとんど取り除かれてゼロに近い状態にあると想定されます。この点、Aに向けてのテーパリング期間中はトレーニング量が大幅に減っているわけですから、シナリオ①「テーパリング開始前にあまりトレーニングが積めていないケース」に類似しています。したがって、修正案としては、「テーパリング期間を短縮する」と「量の減少率を小さくする」という2つが考えられます。わずかな期間において、急激にトレーニング負荷を増やすことは避けなければなりません。なぜなら、フィットネスは急激に増えない一方で、疲労は急激に溜まるリスクがあるからです。そこで、疲労の急激な蓄積を避けつつ、フィットネスの微増または維持を狙う戦略が有効になるわけです。

 

・Bの方がAよりも相対的な重要度が高いケース

 まず1つに、Aを強度の高い練習として取り組み、Bに向けて通常のテーパリングを実施することが考えられます。しかしながら、多少なりともAに向けてのコンディションを調整しなければならないということもあるでしょう。この状況では、Aに向けて「ミニテーパリング」を実施してミニピークを作り、その後、Bに向けてしっかりとテーパリングして最大のピークを合わせるという方針が適切であると考えられます。「ミニテーパリング」の具体策としては、テーパリング期間を短くしたり、テーパリング期間中の量の減少率を小さく抑えたりするのが良いでしょう。この場合も同様に、Bに向けてはトレーニング量が通常レベルよりも少しだけ減ってしまうシナリオと捉えることができ、シナリオ①「テーパリング開始前にあまりトレーニングが積めていないケース」に類似しているため、、修正案としては、「テーパリング期間を短縮する」と「量の減少率を小さくする」という2つの選択肢が考えられるでしょう。この点、「Aの方がBよりも相対的な重要度が高いケース」よりもトレーニング負荷の低下の度合いはそれほど深刻ではないので、「テーパリング期間を短縮する」や「量の減少率を小さくする」といった修正の度合いも小さめに抑えた方が良いでしょう。この度合いをどのように設定するかは状況によって異なるので、テーパリング計画立案者の腕の見せ所ですね。